BLOG 日記

月下美人

 

自主練習を終え、スタジオを出て暗い道を歩いていたら
『ねぇ、あなた』と声を掛けられ、
『はい』 見るとおばあさんが立っていていました。考える間もなく、
『ねぇあなた、ちょっと家によって月下美人、見ていかない?!今夜咲いたのよ!』
少し興奮気味なようでした。とにかく少しでも多くの人に見てもらいたい、とばかりに彼女は夜空の下、通りに出ていたのです。
ようやく状況が把握出来た私は、
『わぁっ、月下美人なんて写真でしか見たことがありません。ぜひ見たいです。』と言うと
『あぁ良かったわ、どうぞどうぞ。』
と初対面の私をそそくさと門の中に招き入れて下さいました。
庭木の横を通り抜け、奥に進むとふわっと妖艶な香りが漂ってきました。そしてそこに、真っ白な大輪が咲き誇っていました。
思わず、わぁ~、と言うと
『いい香りでしょ。たった一晩で終わりなのよ。一年に一度、たった一夜咲いて終わりなの。』
身の毛が、ぞわっとした。たった一夜、大輪の花を咲かせる、二度とないこの瞬間のために、一年間耐えて命を繋いできたのだ。まるでコンクールみたいだ、と思った。
その花の見事さ、ゴージャズさ、美しさ…
たった一夜の晴れ舞台に、立ち会わせてもらえたことに感謝。お礼を言って門を出ました。
おばあさんは、私を送ってそのまま、また通りに立っていました。
秋風がとても心地良く感じました。



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